この記事でわかること

  1. 成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類がある
  2. 成年後見制度の申請方法、手続きの流れ
  3. 成年後見人にはどれくらいの費用がかかるのか
後見人のイメージ

「成年後見制度」とは、認知症や障害などの理由により、ご自身で判断する能力が充分ではない人の財産管理などの支援を行うための制度です。
支援は「成年後見人」と呼ばれる人が行います。

高齢化が進む中で、成年後見制度はますます重要になってきています。
今回は成年後見制度の種類や申請方法、費用についてわかりやすく解説していきますので、しっかりと理解しましょう。

成年後見制度とは?

成年後見制度とは認知症や障害などの理由により、ご自身で判断する能力が判断能力が充分ではない人の財産管理などを支援する制度のことです。

高齢になると認知症などにより判断能力が低下してしまい、財産の管理や契約行為などが難しくなる場合があります。自分に不利益な契約であっても、よく判断ができずに契約を結んでしまったりして、財産を減らしたり失ったりするようなケースも考えられます。
このようなリスクから、判断能力の不十分な方たちを保護・支援するのが「成年後見制度」です。認知症のほかには、知的障害、精神障害、病気や事故により脳に障害を負った人なども制度の対象者です。

成年後見制度には、法律で内容を定める「法定後見制度」と、契約による「任意後見制度」の2種類があります。現在すでに65歳以上の7人に1人が認知症というデータもあり、利用するケースが多いのは法定後見制度なので、法定後見制度の内容に沿って成年後見制度を解説していきます。

成年後見人とは?

成年後見制度において、判断能力が低下した人の保護・支援の仕事をするのが「成年後見人」です。
後見人は常に被後見人(本人)にとって利益になるよう考慮し、安心して生活していくためにはどうすればよいかを考えて、後見の仕事に当たるのが基本です。成年後見人の役割は主に次の2つあります。

  1. 財産の管理
    たとえば、判断能力が低下した人(被後見人、以下本人)の名義の預貯金や有価証券(株式など)、不動産などの管理・運営を本人に代わって行います。預金の引き出しや各種の振り込みなども後見人が行うわけです。そのため成年後見人の選任後は、後見人の同意がない限り、本人もその家族や親族等も財産を動かすことはできなくなります。
  2. 身上監護
    本人の意思や身体の状態などに応じて、必要な医療や適切な介護サービスが受けられるよう、医療や介護に関する法律行為を行います。具体的には、病院の入院契約や高齢者施設への入所契約などが該当します。身上監護というと、身の回りの世話をするというイメージもあるかもしれませんが、食品などの日用品の購入、食事の世話や実際の介護などは後見人の役割から外れます。手術の同意など治療内容の判断も後見人の職務の範囲外です。高齢者施設への入所時の身元保証人などにもなることはできません。なお、本人が訪問販売を断れずに、いらない物を次々と購入してしまう、同じような保険にいくつも入ってしまうなど、本人にとって不利益な契約をしてしまった場合には、後見人はそれを取り消すことができます。

成年後見人の具体的な役割

財産の管理や身上監護の具体的な役割は次のとおりです。

①被後見人名義の財産の管理

  • 預貯金の入出金
  • 生活費(公共料金など)の支払い
  • 有価証券(株式等)の管理
  • 税務申告(相続税や所得税などの申告)遺産相続の代行(遺産分割協議への参加や相続放棄の判断など)
  • 不動産の管理(本人がアパートなどの不動産を所有している場合)

②身上監護

  • 病院の入院契約
  • 高齢者施設への入所契約
  • 介護が必要になった際の手続き

相続の際に成年後見人を立てる必要がある場合ってどんなとき?

被相続人が遺言書を残していない場合、通常、相続人全員で遺産分割協議をすることになります。遺産分割協議は法律行為なので、相続人の中に認知症などにより判断能力が低下した人がいると、成年後見人を立てる必要が出てきます。

後見人は本人が不利にならないよう法定相続分を確保するために他の相続人と協議し、遺産分割協議書に則って財産を本人名義に変更する手続きを行います。 また相続財産の内容について財産より負債のほうが多い場合には、本人の相続放棄の判断なども行います。

成年後見人になれる人、なれない人

成年後見人は家庭裁判所が選任します。
成年後見人になるための資格などは特に必要なく、
本人に必要な保護や支援の内容に応じて、本人の利益になる人が選ばれます。

具体的には本人の親族のほか、法律や福祉の専門家、その他の第三者(市民後見人)、福祉関係の公益法人などです。

成年後見人は1人の場合もありますが、財産管理をする後見人と、身上監護を行う後見人が複数人選任される場合もあります。
今までは、多くのケースで弁護士や専門家が成年後見人に選ばれていましたが、2019年に、最高裁判所が成年後見人には「身近な親族を選任することが望ましい」との考え方を示しました。 このため今後は親族後見人が増える傾向があると考えられます。

成年後見人になれる人(主なケース)

  • 本人の親族(配偶者、子、兄弟姉妹など)
  • 弁護士
  • 社会福祉士
  • 司法書士
  • 税理士
  • 社会福祉協議会
  • 市民後見人(市民後見人養成の研修を受講済みで、市民後見人の登録をしている人)

成年後見人になれない人

本人の親族であっても、財産管理などが難しい場合には成年後見人になれないこともあります。法律上、親族が成年後見人になれないのは下記のケースです。

親族でも成年後見人になれないケース

  • 未成年者
  • 破産者で復権していない人
  • 本人に対して裁判を起こしたことがある人、およびその配偶者や直系親族(親や子)
  • 成年後見人を解任されたことがある人
  • 行方不明者

本人の資産が多額であったり、本人と親族の間に利害の対立がある場合なども親族は後見人になれないことがあります。

成年後見制度の申請手続きの流れ

成年後見制度の利用手続きの流れ

成年後見制度を利用するまでの流れはざっくりいうと下記のとおりです。①から④までのトータルの期間はケースバイケースですが、4カ月以内というのが一般的です。

①申立て

申立人が本人の住所地の家庭裁判所に申立てることからはじまります。

  • 申立ての準備 申立人や後見人の候補を検討します
  • 本人の判断能力の診断書を取得かかりつけ医などに依頼します
  • 必要書類の収集、作成、提出 直接持参でも、郵送も可

②家庭裁判所の審理

  • 申立人や後見人候補者と裁判所職員との面接により、詳しい事情を聞き取る
  • 本人に面接し意思確認
  • 親族(法定相続人)の意向を照会

③成年後見の開始の審判、成年後見人等の選任

  • 審理の結果、後見が必要なら後見開始を審判し、後見人の適任者を選任
  • 後見人の報酬を決定
  • 後見人に選任された人に審判書を郵送

④審判の確定(成年後見の開始)

  • 審判書の到着後、約2週間で後見開始。後見開始や後見人の住所・氏名、後見人の権限など審判の内容が法務局に登記されます。
  • 異議がある場合には2週間以内に不服申立てを行います(ただし後見人の選任には不服申立ては不可)

成年後見人にはどのくらい費用がかかるの?

成年後見人にはどのくらい費用がかかるの?

成年後見が始まると後見人への報酬の支払いが発生します。弁護士など専門職の後見人の報酬額は家庭裁判所が目安を示しています。これを基準に本人の支払能力に応じて家庭裁判所が定めます。 通常の後見事務を行った場合の報酬を「基本報酬」といいますが、2~6万円/月が一般的で、地域の物価や被後見人の財産額によって変動します。

詳しく説明すると、管理財産額が1,000万円以下だと月額2万円、年額24万円となります。管理財産額が5,000万円超だと月額5万〜6万円、年額60万〜72万円です。

基本報酬のほか、身上監護等に特別困難な事情があった場合には基本報酬額の50%以内で相当額の報酬が付加されます。また、後見人が本人の財産を守るために訴訟や遺産分割調停など特別な行為を行った場合には付加報酬が受け取れます。 後見人が親族の場合には報酬を申立てないことが多いのですが、申立てがあった場合には上記を参考にそれぞれのケースに応じて減額される場合があります。

後見人への報酬額の目安

業務内容 報酬
管理財務額報酬額/月額
基本報酬通常の後見事務1,000万円以下2万円
1,000万円以上~5,000万円3~4万円
5,000万円以上5~6万円
付加報酬身上看護等に特別困難な事情があった場合基本報酬額の50%の範囲内で相当額の報酬を付加
特別な行為をした場合訴訟、遺産分割調停などをした場合、相当額の報酬を付加する場合あり

出典:東京家庭裁判所

成年後見人は「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類

冒頭でも述べましたが、成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。法定後見制度について詳しい分類と任意後見制度についても説明します。

法定後見制度とは

法定後見制度は実際に本人の判断能力が不十分になってから始まる制度です。家庭裁判所に選任された成年後見人が本人を支援します。 本人の判断能力の度合いに応じて、「後見(こうけん)」「保佐(ほさ)」「補助(ほじょ)」の3種類の制度が用意されています。症状が重い順に後見→保佐→補助と分類され、それぞれについて後見人ができることが定められています。判断は医師の診断によります。

法定後見制度の3種類と対象になる人

後見(こうけん)判断能力が欠けているのが通常の状態の人(徘徊をするなど日常生活にも支障をきたす人)
保佐(ほさ)判断能力が著しく不十分な人(重要な法律行為の判断が難しい人)
補助(ほじょ)判断能力が不十分な人(特定の法律行為の判断の難しい人)

任意後見制度とは

国が法律で内容を定める「法定後見制度」に対して、「任意後見制度」は基本的に後見人選びから委任する事柄や報酬まで、本人が自由に決められる成年後見制度です。本人が十分な判断能力を有する時に、あらかじめ、「任意後見人」となる方や将来その方に委任する事務の内容を公正証書による契約で定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人が委任された事務を本人に代わって行う制度です。候補者の承諾を得て公正証書による「任意後見契約」を締結しておきます。

候補者は親族のほか、弁護士や司法書士などの専門家や社会福祉法人などから信頼できる人を選びます。

この段階では候補者はまだ任意後見人ではなく「任意後見受任者」となります。委任する内容は法定後見制度の場合と同様、財産の管理と身上監護の範囲内で取り決めます。 実際に本人の判断能力が低下すると、任意後見受任者などが家庭裁判所に申し立てを行います。そして家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任すると、任意後見契約の効力が発動します。任意後見監督人とは任意後見人が契約の内容どおり、適正に仕事をしているかをチェックする人のことで、月額1万~2万円の報酬が発生します。

法定後見制度と任意後見制度のメリット・デメリット

法定後見制度と任意後見制度には、それぞれメリットとデメリットがあります。本人の判断能力が低下してからだと、法定後見制度しか利用できないので、判断能力が低下してからのことを自分の意思で決めたい場合は、元気なうちに任意後見制度を検討することが必要です。

法定後見制度のメリット・デメリット

メリット

  • 本人の意思だけでなく、家族にとっても信頼できる人が選べ安心感がある。
  • 任意後見制度に比べて費用が割安である。

デメリット

  • 後見開始までの手続きに時間がかかってしまう(4カ月程度)。

任意後見制度のメリット・デメリット

メリット

  • 契約内容の自由度が高いため、本人の意思が十分に尊重される。
  • 事前に契約を締結しているので、いざ本人の判断能力が低下したときに迅速に後見が開始される。。

デメリット

  • 制度を利用するには、必ず任意後見監督人が必要になる。
  • 法定後見制度に比べて費用が割高。

相続における成年後見制度の注意点

相続が発生する場合には、成年後見制度に大きく2つの注意点があります。

  1. 本人が相続人になるケース:
    本人の判断能力が低下している場合、遺産分割協議を行うには後見人が必要になります。成年後見人が選任されると、原則として本人が死亡するまで辞めてもらうことはできないのです。後見人を立てると一定の報酬を支払わなければならないので、その負担は本人が死亡するまで続くきます。親族が後見人になれば、その人が報酬を辞退すれば費用をかけずに後見の仕事をしてもらうことができますが、前述のとおり親族が相続人の立場になると代理を行うことはできなくなってしまいます。
  2. 本人が自分の財産について、相続税対策をする場合:
    成年後見人を立てると、その時から本人の財産を動かすことに制限がかかります。本人の利益を守るために財産をできるだけ減らさないということが最大の目的になるため、家庭裁判所の管理のもと預貯金口座から生活費を引き出すことなどはできますが、株式や不動産の売買や名義変更、生命保険の契約などは原則として不可になります。 生前贈与や相続税の納付用に生命保険に加入するなどの相続税対策が難しくなります。相続税対策には早めに着手することをお勧めします。

まとめ:成年後見制度の利用を検討するときは慎重に!

成年後見制度は、一度利用し始めると原則本人が死亡するまで終わりません。
遺産分割協議のためだけに早まって利用すると、後見人への報酬の負担で後悔する場合もあります。本人の財産が守られる反面、管理が厳格になり、後見開始後は本人の財産を自由に動かすことはできなくなったり、相続税対策として有効な生前贈与、生命保険の契約、養子縁組などもできなくなるので、対策は本人に判断の能力のあるうちに行うことが非常に重要となります。
判断能力の低下した本人の財産の管理については、家族信託など他の方法もあるのでそれぞれのメリット・デメリットを熟考し、慎重に検討することが重要となります。

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